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不動産鑑定士 高橋雄三
東京都内でホテル・旅館の再生・仲介ビジネスを専門に手がけている知り合いの仲介業者から問い合わせのメールが来ました。
盛岡市内のビジネスホテルが売りに出そうなので、力を貸して欲しいとのことです。
営業中のホテルなので、従業員やお客さまに秘密裡に話を進めなければなりません。
土地や建物の調査や評価は、当事務所の得意な分野なので、全面的に協力できますが、細部の調査や交渉はどうしても地元の仲介業者の協力が必要になります。
仙台方面は、(財)日本不動産研究所仙台支所に5年程在籍していたので、知り合いの仲介業者も何社かありますが、盛岡市内は全く手がかりがありません。
東京で仕事をしている人にとっては、東北方面は、福島も仙台も盛岡も、隣の都市ぐらいに思われるかもしれませんが、盛岡市と福島では仕事上の付き合いはほとんどないのが実情です。
信頼のできる仲介業者を紹介して欲しいとのことですが、直接の手がかりがなく、困ってしまいました。
そこで、フト思い付きました。日頃から、お客さまはインターネットとホームページを利用して、物件探しと信用できそうな仲介業者探しをしていると説いている自分自身で、実行してみたらいいのではということです。
早速、「盛岡市・不動産」というキーワードを検索エンジンに入力してみました。
不動産業のポータルサイト(総合窓口)や、フランチャイズチェーンのホームページが上位に表示されていますが、特に会社の「信頼情報」は載っていません。
上位10社のうち、独自のホームページが表示されたのは4社でしたので、その4社のホームページを詳しく見させてもらいました。
会社案内に、創業の理念を掲げ、社長以下スタッフ全員の紹介欄があり、社長のブログが載っているのは1社だけでした。
社長ブログのバッグナンバーを約1年分読ませてもらいました。
仕事上の出来事や地域のイベントについて、感じた事や思った事をありのままに述べた好感の持てる文章です。
常々、コラムやブログが大切だと説いている自分が体験してみて、その大切さを改めて認識しました。
お客さまは、ホームページを通して、信用に値する会社も探しているし、ホームページを詳しく見れば、必ず手懸かりは得られるということがよく分かりました。
近々、その会社の社長とお会いして、このプロジェクトについての協力をお願いするつもりです。
インターネットとホームページの便利さ、ありがたさを実感できた貴重な体験でした。
10年程前に、不動産の売買仲介業の現状と問題点について本格的に調べたことがあります。
買い物をする際に、商品の説明をしてくれたり、代金の支払いの手伝い、場合によって値段を下げる交渉をしてくれたりする店員(不動産の場合は仲介業者)に料金(仲介手数料)を支払うというシステムがよく理解できなかったことが動機の一つでした。
宅建協会伊達支部の新年会に招かれ、不動産仲介業の未来像についてのセミナーを依頼されたことも契機でした。
丁度、インターネットが本格的に普及しはじめた時期でもあり、「インターネットは中間業者の地位を脅かす」のではないかという議論が盛り上がっていました。
ビジネスでの利用という側面からインターネットを定義づけると、中継機能の排除、つまり中継機能・仲介機能にとってかわる存在だと強調されていました。
B(ビジネス)to Bとしての中間流通業者は排除され、存立基盤を失うとまで言われたものです。
不動産仲介業は、典型的な中間流通業です。しかし、B to Bではなく、大部分がC(コンシューマー)to Cのビジネスです。
家や土地を売りたい人は、インターネット上に売り物件の情報を発信すればよい。買いたい人はインターネットでその情報を探し出し、直接、当事者どうしで交渉をすれば、仲介業者など不要だし、手数料もかからないといった議論でした。
その後の10年間の推移を振り返ってみると、仲介業界もお客さまも、大きく変わった面と基本的に変わらない面があります。
インターネットの利用という点では大きく変わりました。
まず、仲介業者の大部分はインターネット・ホームページで物件情報をお客さまに知らせる方式を採用するようになりました。広告チラシの配布は情報量も少なく、経費的にも無理だからです。
お客さまも、インターネットを利用すれば、自分の希望する地域、種別、価格の物件情報をいくらでも入手できるようになりました。
しかも、物件情報だけでなく、その会社のホームページをよくチェックすれば、会社の営業姿勢、経営者の理念、営業マンの人柄まで分かるようになったのです。
10年前の予測よりも、機能としても内容としても大きく進んでいます。
しかし、変わらなかったこともあります。
インターネットがこれだけ普及しても、仲介業者の役割が不要になったり、減少しなかったことです。
でも、その中味、仲介業者の役割は大きく変わりました。
物件情報の発信機能は相対的にその役割が低下し、代わって、お客さまの取引の安全・安心をサポートする会社がここにありますよという「信頼醸成」機能が重要になったということです。
お客さまの立場になって考えてみればすぐに分かることですが、一生に一度か二度の高額の買い物をするのですから、物件の選択と同じように、信頼できる会社選び・営業マン選びは大切なことです。
インターネットの普及は仲介業者の役割を低下させ、排除するのではなく、むしろ、その役割の重要性を浮かび上がらせたといえるのではないでしょうか。